新型コロナウイルス蔓延の影響、2020年通年のアジア太平洋オフィス市場のデータが出揃ったことからその実態が見えてきた。大枠のトレンドとして都心部のオフィス市場への負の影響が顕著に表れる結果となった。
シンガポールのグレードAオフィス市場においては空室率こそ3.7%と引き続き低い水準で推移したものの、ネットアブソープションは約2,600坪であり直近10年間で最も低い水準となった。賃料は2020年全体で10.1%の下落を観測。郊外オフィスの需要は落ち着いており、賃料も都市フリンジ/郊外エリアでは軽微な下落(-3.2%/-1.9%)に留まった。今後テック企業及び投資会社がオフィス需要をリードしていくことが予想され、東南アジアのゲートウェイ都市として以外にも、競合する香港市場からの拠点移転需要も見越す。
香港では、空室率は12.6%と高水準で推移。賃料も通年で-19.3%と顕著な下落を記録している。こちらも都心部のグレーターセントラル・エリアが顕著な影響をうけ、賃料は-22.4%下落となった。今年は経済環境の不確実性により、13-18%程のさらなる賃料下落を見込む。サービスオフィス・オペレーターが、他の同業プレイヤーが借りていたオフィス区画を契約する例も見られている。ビルオーナーも空き区画をサービスオフィスとして新設する予定を立てるなど、今後のフレックススペース需要を見込んだ戦略の切り替えも見られている。
オーストラリアのシドニーでは空室率が8.6%まで上昇しており、プライムオフィス実効賃料はインセンティブ増加を背景に15.5%の下落を見せた。同市場ではシャドースペースと呼ばれる潜在的サブリーススペースが多く存在することもありテナントの争奪が水面下で繰り広げられている。
同地域のなかでもウイルス蔓延に比較的成功している国々のオフィス市場はどうだろうか。
中国上海のグレードAオフィス市場でのリーシング活動は活発で、ノンコア立地の床需要は高い。全体での空室率は20.74%であり、コアは15.74%だが、ノンコアは28.76%という結果。金融セクターが特に強い床需要を示しており、主に証券会社、AM、銀行、投資機関が移転・拡張を行っている。コア賃料に大きな変動は見られないが、ノンコアが下降トレンドをみせているが、背景には大量供給を控えたビルオーナー間での競争関係激化があげられる。
台湾台北では、10年ぶりに低い水準の床需要を記録。オフィス市場全体における空室率は4.5%であるが、2020年を通して約6,200坪のみの新規契約し観測されず、10,000坪を下回ったのは2009年ぶり初となった。それでも予定される新規供給が限定的で、アジア太平洋地域のなかで数少ないビルオーナー向きの市場を維持している。短期的にはオフィス市場のリーシング活動は横ばいに推移し、賃料成長は継続するもののそのモメンタムを落とす見込みだ。韓国ソウルでは新規竣工ビルが好調なテナント内定率を見せているものの、空室率は8.5%となっている。CBDでは空室率9.8%であるがGBDは1.6%と市場がタイトな状況だ。YBDは前四半期から2.6pp改善させたものの18.0%と以前高い状態が続く。
グローバル経済の後退が同地域市場の回復速度を弱めることも予想されるが、グローバルで最も早く経済回復を期待される地域との期待から、引き続きグローバル市場参加者からのオフィス市場への関心度は高い。
この記事は不動産ファンドレビュー562号(2021年4月15日発行)内のGlobal Reportに掲載されたものです。
パンデミックがアジア太平洋オフィス市場へ与えた影響
15/04/2021
新型コロナウイルス蔓延の影響、2020年通年のアジア太平洋オフィス市場のデータが出揃ったことからその実態が見えてきた。大枠のトレンドとして都心部のオフィス市場への負の影響が顕著に表れる結果となった。