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日本不動産投資市場・市況レポート 2023 年下半期

24/01/2024

マクロ環境:内外金利が反転していく中でも、国内投資家においては良好な融資環境が継続する見通し

国内景気の動向をみると、2023年の実質GDPは暦年換算率1.6%程度と緩やかな景気回復となったものの、2024年は内外リバウンド需要の一巡や海外経済減速等により、1.0%程度へ減速する見通し。海外においても、欧米の高金利政策の長期化による総需要の下押しなどにより、2024年にかけて日米欧全体では同0.9%まで同様に減速する見通し。先物市場のプライシングに基づけば、米国の政策金利の引き下げのタイミング や次回の春闘での賃上げ率の度合いを踏まえ、3月以降を目途とした日銀のマイナス金利政策解除が織り込まれていることが示唆されている。このように主要国中銀の政策金利格差が意識される中、為替動向をみるとドル円相場は当面のハードルとなる150円を意識した円安ドル高傾向が継続する見通し。また、円安の長期化からも、さらなる輸入材のコスト高に伴うインフレの継続が見込まれていることにも留意したい。

次に、長期金利の動向をみると、マイナス金利政策解除の思惑から中立金利0.8%を超え0.95%まで上昇する局面もあったものの、年末には0.6%まで低下。先物市場のプライシングに基づけば、2024年内は緩やかに1%を目指していく展開が織り込まれている。金利上昇懸念にも関わらず、国内の融資動向をみると、不動産業向け貸出は名目GDP対比で16.5%と増加基調を維持。不動産業以外での資金需要がそれほど強くないことも相まって、銀行の不動産業向けの貸出態度判断DIにはほぼ変化は見込まれていない。

売買取引: 新たな国内投資家層にけん引されて、投資用不動産の年間売買取引高は前年同期比2.8%の微増

足許の投資用不動産売買取引高を総括すると、過去12か月累計約8.0兆円、対前年同期間対比で2.8%の微増となった。これまで買い遅れてきた事業会社や国内投資家の買い需要が引き続き旺盛であることもあり、年間取引総額は、安定的に推移。今後の長期金利1%への上昇を前提としても、主要国の中では唯一プラスとなるキャッシュ・オン・キャッシュリターンは堅持される見通しであり、大きなサプライズは見込みがたい。 投資家別属性別にみると、機関投資家が引き続きネットの買い越し。これまで市場を牽引してきた海外投資家は、資金調達コストがほぼ倍増したこともあり売却が急増、ネットの年間売買高は約29億円と減速した。一方、REITや非上場会社は売り越しを継続。 J-REITの平均負債調達年限は約4年、平均負債調達金利が0.6%近辺と負債コストは低位安定しており、含み益も十分にあるものの、NAV 対比では上値の重い環境が継続している。
 
景気感応度の高いセクター別に取引動向をみると、オフィスへの調査対象セクター合計に対する比率では2020年の42%から32%に大きく減少。立地条件やアセット・クオリティ―に基づいた投資家の選別志向は強まっており、成約取引のプライシング・レンジも拡大傾向にある。ホテルへの同投資比率は前年比倍増しており、売買価格も相応に回復したことから、年末にかけてビッド・アスク・スプレッドは拡大傾向。一方、ファンダメンタル対比で割安であった店舗の同比率は上昇傾向にある。景気感応度の低いセクター別にみると、物流施設への同比率は約20%とほぼ変わらず。賃貸住宅では、買い手の大型取引などに対するリスク回避志向が高まる一方で、売り手は強気な姿勢を崩していないことあり、価格目線がかみ合わず全体の16%へ低下した。
 
プライシング:幅広い投資家層から投資資金の純流入が継続し、期待利回りはほぼ変わらず
 
世界有数の潤沢な流動性を保つ日本市場では金利とキャップレートの連動は総じて低い。金利の緩やかな上昇局面でも、不動産投資市場への資金流入は継続。収益不動産資産の規模も過去5年平均年率5%前後,で拡大、証券化対象不動産総額も年末には50 兆円に達する見通し。資産別の収益状況を概観すると、賃貸ファンダメンタルが堅調な郊外型商業を中心に安定したインカムリターンは健在 。景気感応度の低い賃貸住宅や物流施設であればキャピタルリターンも期待できるため、国内不動産投資家の期待利回りはほぼ変わらず。都心オフィスの取得キャップレートでは2%前半も散見された。しかし、個別資産のリスクプレミアムは上昇傾向、資産クラス別キャップレートの上限は上振れしていることには留意したい。
 
2023年下半期の主な大型取引を総括すると、立地条件が優れた物件の自社使用や再開発を前提とした国内事業会社の買い意欲が旺盛であった。ヨドバシカメラやエディオンは駅前店舗資産を購入。ネット販売との親和性が高い電化製品については、コスト優位性に劣るロードサイド出店の限界が指摘されており、立地条件に優れたフラッグシップ型の駅近店舗にはかなり強気な買い需要も散見されている。ほか、ホテル資産については、価格支配力に優れた外資系オペレーターへの委託を前提としたポートフォリオの売買が報告された。前述の店舗資産をエディオンに売却したメープルツリーインベストメントは大阪のデータセンターを購入。開発を前提とした三井不動産は電力供給余力の残る東京郊外のデータセンター(底地)を購入した。

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